異界の使者クーフリン  ケルト神話の原点をさぐる

異界の使者クーフリン  ケルト神話の原点をさぐる

京都大学名誉教授 佐野哲郎 氏

 すべての民族が持っているといわれる神話には、必ず異界が現れます。それは、あるいは神の国であり、あるいは死者の世界であり、あるいは海の彼方の理想郷です。これらの異界の存在を認識することこそが、人間に、生きることの意味を教えてきたのです。アイルランド神話の最大の英雄と言われるクーフリンは、異界の父の子として生まれ、異界と行き来し、生涯、異界と縁が切れることがありませんでした。このいわば異界の使者としてのクーフリンが私の話の主人公となります。
ウェールズの伝承から発展したとされるアーサー王物語に、「サー・ガウェインの緑の騎士」という物語があります。これを、同じ主題をもつ、クーフリンの物語と比べる事から始め、クーフリンの数多い冒険譚を紹介して、アイルランド神話の原点がどういうものであるかを、考えようと思います。
さらに、強調したいことは、アイルランド神話と日本神話との間にある不思議な類似です。海を越えて常若の国へ行ったアシーンの物語と、浦島伝説とが似ていることは、よく知られていますが、ほかにも、地名の由来へのこだわりという重要な類似があります。それをお話しすることが、もう一つの柱です。