イエイツと詩の力 「赤毛のハンラハン物語」と『葦間の風』をめぐって

 イエイツと詩の力「赤毛のハンラハン物語」と『葦間の風』をめぐって

 2015年はW・B・イェイツの生誕一五〇周年の節目にあたる年なので、彼の文学について語ってみたいと思う。さりとて全部を網羅的に、というわけにはいかない。今回はイェイツ山塊の入り口近くにそびえたつ最初のピークと言うべき、世紀末のイェイツに的を絞ることにしよう。
イェイツはこの時期、アイルランド西部で農家のひとびとが聞かせる歌や物語に耳を傾けてことばの原初的な魔力に触れ、ダブリンではアイルランド独立運動の活動家に接近し、ロンドンではフランス象徴派に倣おうとした唯美派の詩人グループの一員として頭角を現しつつあった。さらに、時代を形成した思想に反発を感じていた彼は神秘主義にも熟を上げていた。散文物語集『神秘の薔薇』(1897年)と詩集『葦間の風』(1899年)は、フオークロアとナショナリズムと唯美主義をつなぐ独自の達成である。
『神秘の薔薇』には「赤毛のハンラハン物語」と題された6編からなる連作物語がおさめられている。イェイツ自身が後に大幅な改作をおこなったため、この物語の初期版は従来あまり注目されなかったが、最近ぼくは初期版を日本語に翻訳する機会を得た。さらに、『葦間の風』の抒情詩をも日本語に翻訳し、それらを合本して出版しようと計画しているところである。
世紀末のイェイツ文学には妖精や精霊が飛び交い、ことばが獣のようにたわむれ、ときに牙を剥いて、迷い込む者の魂をゆさぶらずにはおかない世界が描かれる。これがいわゆる「ケルトの薄明」のアイルランドで、ぼくたちの多くが心に抱く、アイルランドのイメージの原型である。みなさんとともに、めくるめく幻想のアイルランドを散歩してみたいと思う。

講 師   早稲田大学文学部学術院教授   栩木 伸明氏
日 時 2015年4月19日(日) 14:00~16:00  13:30会場
           
会 場  あいれふ講堂(10F)
福岡市中央区舞鶴2-5-1   ☎ 092-751-7778
 参加費   般1500円  会員 無料*当日会場で直接受付ます
主 催 日本ケルト協会
後 援 福岡市、福岡教育委員会 、(公財)福岡市文化芸術振興財団