アイルランドの考古学から

アイルランドの考古学から

             岡山大学大学院教授  新納 泉氏(にいろ いずみ)

 アイルランドというと、流麗なケルト文様や豪華な黄金製品のほか、豊かな初期キリスト教文化に目を奪われますが、考古学の資料をていねいに調べていくと、意外に文化の浮沈が激しいことに驚かされます。とりわけ、キリスト教が伝わる直前の数世紀は「鉄器時代後期の凪」と呼ばれるほど社会の動きが止まってしまい、「アイルランドから人が消えてしまったのではないか」とさえ言われるほどです。
その理由は何なのだろう。以前にイギリスを対象に研究を行い、『鉄器時代のブリテン』を著したことがあるのですが、そのブリテンともあまりに違っています。
半年のアイルランド滞在で、思いに思いをめぐらせた苦悶の結果をお聞きいただけたらと思います。日本の古墳時代を専門にし、多くの発掘調査を続けてきたフィールド考古学者の立場から、ナマの考古資料に迫っていきたいと思います。
アイルランドの考古学は、1995年から2007年まで続いた「ケルトの虎」の時期を経て、その姿を大きく変えました。日本の考古学が高度成長期を境に一変したように、道路をはじめとするインフラ整備のための発掘調査で、資料の量が爆発的に増加したのです。しかし、残念ながら発掘調査の報告書がほとんど刊行されていないために、その成果があまり広く伝えられていません。また、「ケルト」についての理解も、考古学の世界では、大きく変わりつつあります。そうした新しい研究の成果も、できるだけ紹介させていただきたいと思います。

<プロフィール>新納泉(にいろいずみ)
岡山大学大学院社会文化科学研究科教授。古墳時代の装飾付大刀や三角縁神獣鏡などの遺物研究を専門としたが、岡山大学に
赴任後は古墳の発掘調査を続ける。そして、異なった文化と比較しなければ古墳時代はわからないと考え、1991年に39歳でイギリス
のサウサンプトン大学に留学。そこで知ったコンピュータ考古学が自分の新しい専門分野に。 2012年にダブリン大学に留学。
現在は、前方後円墳の設計原理の研究を進めている。