『風と共に去りぬ』とアイルランド表象

日本ケルト協会/ケルトセミナー一日愛外交樹立60周年記念

『風と共に去りぬ』とアイルランド表象

東京外国語大学名誉教授 荒このみ氏

 『風と共に去りぬ』(1936)の主人公スカーレット・オハラは、アイルランド人を父親にフランス系アメリカ人を母親にして生まれました。
著者マーガレット・ミッチェル(1900-49)は、アメリカ南部のジョージア州アトランタ生まれで、両親ともにアイルランド系です。アメリカの歴史上、最大の出来事であった南北戦争を背景にした大河小説を書くにあたり、著者は自分がアイルランド系アメリカ人だからという理由で、主人公の父親ジェラルド・オハラをそのように設定したのでしょうか。
ジェラルドはほとんど無一文でアメリカへ政治亡命します。すでにアメリカへ亡命していた長兄次兄と同様に、英国へのレジスタンス運動に加担していました。そのころから百年たって、ようやくアイルランドは英国の自治領になりますが、英国から完に独立してアイルランド共和国になるのは1949年のことです。
父親からアイルランド人の血を引く、ビートルズのジョン・レノンは、「たまたまアイルランド大だったら」という歌を作りました。英国リヴァプールはアイルランドに近く、そこで反骨の精神を養ったのでしょう。レノンは反戦歌を作り、反戦運動に積極的に参加します。 19世紀に多くのアイルランド大が世界の諸国に移住しましたが、それぞれの地域でアイルランド魂を育み、その出自を忘れることはありませんでした。この品からアメリカにおける「アイルランド表象」の意味を探りましょう。

【プロフィール】荒このみ(あら このみ)
1946年 埼玉県生まれ。お茶の水女子大学卒業。東京大学大学院博士課程修了。中央大学、津田塾大学、東京外国語大学教
授、立命館大学客員教授を経て、現在、東京外国語大学名誉教授。博士(文学)。
主著に、『マルコムX一人権への戦いー』(岩波新書)、『歌姫あるいは闘士ジョセフィン・ベイカー』(講談社)、『アフリカン・アメ
リカン文学論一一「ニグロのイディオム」と想像力』(東京大学出版会)、『黒人のアメリカー誕生の物語-』(ちくま新書)など。
訳書に、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』全6巻(岩波文庫)。