『中世アイルランドの修道院と文化』~アイオナ修道院を中心に~

本ケルト協会/ケルトセミナー一日愛外交樹立60周年記念

『中世アイルランドの修道院と文化』
~アイオナ修道院を中心に~

大分工業高等専門学校准教授 田中美穂氏

 アイルランドは、ヨーロッパにおいて、最も早<全土がキリスト教化された地域の一つである。
600年頃までにアイルランド各地に教会や修道院が創建されていった。なかでも、スコットランド西部のヘブリディーズ諸島内の島に建てられたアイオナ修道院は、ブリテン諸島北部へのキリスト教布教の中心地となった。ブリテン諸島全土のキリスト教化やキリスト教文化の形成に対して、アイオナ修道院が果たした役割はきわめて大きい。
アイオナ修道院を創建した聖コルンバは、アイルランド北西部の有力な王族ケネール・ゴニルの出身であった。アイルランドで複数の修道院を建てたのちに、「キリストのための異郷遍歴者」となるために、故郷を離れてスコットランドの小さな島アイオナに航海した。563年にここに修道院を創建し、自身が初代アイオナ修道院長となった。597年にコルンバは死去したが、彼を称える詩や聖人伝が執筆された。
9代目アイオナ修道院長の聖アダムナーンが7世紀末に執筆した『聖コルンバ伝』は、コルンバのみならず、アイオナ修道院に関する最も重要な史料である。コルンバはブリテン諸島各地に赴き、各地の王や王族、司教や修道院長らと交流する。コルンバと彼らとの関係を通じて、ブリテン諸島北部の政治状況がうかがえる。修道院での生活や文化の営みについても『聖コルンバ伝』から多<を知ることができる。
今回の講演では、『聖コルンバ伝』の舞台となったアイオナ修道院を中心に、7世紀頃のアイルランドの修道院と文化についてお話ししたい。

【プロフィール】田中 美穂(たなかみほ)
京都府綾部市出身。東京都立大学大学院人文科学研究科史学専攻博士課程修了(博士:史学)。大学院生時代、国際ロータリー財団奨学生としてアイルランド国立大学ユニヴァーシティー・カレッジ・ダブリンに留学。現在、大分工業高等専門学校准教授。専門は中世アイルランド史。共著:『アイルランドの経験一植民・ナショナリズム・国際統合』(法政大学比較経済研究所/後藤浩子編、法政大学出版局、2009年、「第1章中世アイルランドにおける「ネイション」意識」)、『イギリス文化入門』(責任編集:下楠昌哉、三修社、2010年、「第5章 イギリスの宗教と生活」)など。論文:「中世初期アイオナ修道院とタール・リアダ王権 - 『聖コルンバ伝』における王の聖別の叙述をめぐる一考察」(『史学雑誌』110篇第7号、2001年)、「「島のケルト」再考」(『史学雑誌』第111編第10号、2002年)、「アイルランド人の起源をめぐる諸研究と「ケルト」問題」『大分工業高等専門学校紀要』(第51号、2014年)など。