フィンとフィアナ戦士団の伝承の多様性とその人気の秘密を探る

日本ケルト協会/ケルトセミナー一日愛外交樹立60周年記念

フィンとフィアナ戦士団の伝承の多様性とその人気の秘密を探る

アイルランド伝承文学研究 渡辺洋子氏

 アイルランドの伝承には、甲乙つけがたい二人の英雄がいる。アルスター英雄伝説のクーハランとフィアナ戦士団の話群のフィン・マックールである。アルスター英雄伝の中心的な話は、1世紀頃コナハト地方の女王メーブとアルスターのコンフール・マック・ネッサ王の宮廷の若い英雄クーハランが一頭の雄牛をめぐって繰り広げる争奪戦「トーイン」でそれは今でも人気である。アルスター英雄伝は古い写本にかなり整った形で残されていて、現在語られる話も写本の内容と大差はない。一方フィンとフィアナ戦士団の話は12世紀になるまで、写本には断片的にしか登場せず、その出自については研究や推測がなされている。しかし興味深いことに、アルスター英雄伝がその物語自身の外にあまり広がりを見せていない一方で、フィンとフィアナ戦士団の話は民間伝承の語り手たちの最も好むジャンヌで、語り手の想像力の羽に乗って様々な話に展開し、増幅し、フィンの姿も様々に変容している。またアイルランド各地に、巨人化したフィンの名を残す風景が沢山ある。今回はアルスター英雄伝と比較しながら、フィアナ戦士団の伝承の多様性と民衆の間でのその人気の理由を探ってみたいと思う。

<プロフィール>    渡辺洋子(わたなべようこ)
聖心女子大学英文科卒業。アイルランド伝承文学研究。 朝日カルチャーセンターでアイルランドの伝承文学や短編小説を英語で読む講座、アイルランド語の講座を担当。四谷のディラ国際語学アカデミーで英語、アイルランド語の講座を担当。 (株)朝日旅行のアイルランド・ツアーの企画、同行講師を務める。著書および論文『子どもに語るアイルランドの昔話』(こぐま社)『アイルランド民話の旅』(三弥井書店)以上共編共訳『アイルランド自然・歴史・物語の旅』訳書『塩の木のほとりで』(アンジェニラ・パーク作)論文「初期の文学のフィンと民話のフィンーニつの顔をもつアイルランドの英雄」(『昔話-研究と資科-35号』日本昔話学会)、「日本の昔話の中の呪物」(『昔話研究の諸相 小潭俊夫教授喜寿記念論文集』昔話土曜会)などがある。