CARA第16号 2009年3月

会報誌cara第16号
会報誌cara第16号

■異界の使者クーフリン
-ケルト神話の原点をさぐる
佐野哲朗

■bardとしてのイェイツ
-イェイツ詩の多元的な声
松田正思

■アイルランドにおける伝承のバラッドと
リテラリー・バラッドの姿
三木奈菜緖美

■日本ケルト教会の歩み
-15周年を迎えるに当たって
山本啓湖

■アイルランド通信         織田村恭子


会報誌CARAバックナンバーご紹介

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ジェームズ・ジョイス 「ダブリン市民」2009

ジェームズ・ジョイス「ダブリン市民」2009

講師 帝京大学教授 日本ケルト協会会員 木村俊幸 氏

 アイルランド文学ジェームズ・ジョイスの有名な作品「ダブリン市民」を原書で読んでいきます。
この輪読会では『ダブリン市民』のなかでも比較的読みやすい作品をいくつか取り上げ、原文で精読していきます。 ジョイスに興味があり、その文学世界を知りたいと望んでいらっしゃるかとはこの機会をぜひお見逃しなく!

ケルティック・クリスマス2008

ケルティック・クリスマス2008

ダーヴィッシュin福岡
Dervish福岡公演

 アイルランド北西部スライゴーで結成された7人組。アイルランドの風土を感じさせるキャシーのチャーミングなヴォーカルと複数の弦楽器で構成された立体的な力強い演奏は今やアイリッシュ音楽のトップクラスに位置しています。詩人W.B.イェイツゆかりの美しく幻想的な自然を擁するスライゴーを拠点に海外ツアーを行っているグループです。
福岡公演は筑前一之宮、住吉神社・能楽殿で催します。
12月の公演に向かって実行委員会のメンバーを募集いたします。

アイルランドにおける伝承のバラッドとリテラリー・バラッドの姿 18世紀から20世紀にかけて

アイルランドにおける伝承のバラッドとリテラリー・バラッドの姿
18世紀から20世紀にかけて

福岡大学 外国語講師  三木 菜緒美 氏

 ジェームス・ジョイスの短編『ダブリン市民』の中から「死者たち」を映画化したジョン・ヒューストン監督の作品『ザ・デッド』には、ジョイスが聞き馴染んでいたというバラッドが美しく歌われる場面があります。バラッドというのは、中世以来ヨーロッパ各地でうたいつがれてきた作者未詳の物語歌です。一個人である詩人や語り部たちがつくり、歌ってきたものとは違い、民衆の中から生まれたものといってもよいでしょう。そのため個人が作ったものと区別して、この口承のものを「伝承バラッド」と呼んでいます。押韻やリフレインなどシンプルな形式を用い、戦いや恋愛、呪い、亡霊、妖精、変身などをテーマとし、イングランドやスコットランドでは15、16世紀頃に最盛期を迎え、シェイクスピアなどの劇作品にも影響を与えてきました。
アイルランドにはアルスター地方を中心に17世紀初めに入植者たちとともに入ってきたといわれており、英語使用の広がり、そして文字としての定着を促した「ブロードサイド・バラッド」の広がりと平行して、アイルランドでもその人気は広まっていきました。その後、このバラットを好んで模倣し、自分の試作品に取り入れたいった詩人が生まれました。このような詩人が作ったバラッドを”Literary Ballad”(リテラリー・バラッド)「バラッド詩」といいます。
18世紀であればスウィフトやゴールドスミスから、現代であればW.B.イェイツまで様々な詩人達がバラッドに親しみ、自らのバラッド観、社会観を表現していきました。
まずは、バラッドの中でもアイルランドで歌われたていた伝承バラッドをいくつか具体的に見て、聞いてみたいと思います。それから18世紀から20世紀にかけてどのようなバラッド詩が作られていったのか、その一部を紹介してみたいと思います。

Bardとしてのイェイツ -イェイツ詩の多声的な声

Bardとしてのイェイツ -イェイツ詩の多声的な声

神戸親和女子大学名誉教授  松田 誠思 氏

 詩人・劇作家W.B.イェイツ(1865-1939)の文学活動は、1880年代末に始まり、1939年に亡くなるまで半世紀に及んでいます。それは英国の支配下にあったアイルランドが、独立のための戦いと挫折を繰り返し、第一次大戦後に「アイルランド自由国」(1922)が成立したにもかかわらず、その国家形態と主権問題をめぐって国論が分裂して内乱が起こり、一応の決着が図られた後も、政治・社会運営において宗派・階級間の深刻な対立が続き、国家的にも文化的にもきわめて不安定かつ流動的な時代でした。
イェイツの文化活動に、このようなアイルランド社会の動向が反映されているのはもちろんですが、彼の詩人としてのあり方には、近現代の多くの詩人たちとは異なるいくつかの特質が現れています。最も注目すべき点は、彼自身、近代ヨーロッパ世界の認識論や価値観を土台に生きてきたにもかかわらず、ある時期からその枠組みを作り直そうとしたことです。彼の心事をあえて一言で言えば、生についても死についても、古代人の経験と英知を学び、蘇らせるべきだということになるでしょうか。もう一つは、社会における詩人の公的役割と地位の重視です。
古代・中世のアイルランドには、Bard(バード)と呼ばれる詩人・語り部がいました。部族の神話・伝説や、系譜・歴史を語り伝える高い素養を持ち、時に応じて詩を吟じ、人々を楽しませるきわめて重要な役割を担っていました。
イェイツは若い時からこのバードの伝説に自分を位置づけ、高貴な精神性と民衆的生のエネルギーに形を与えようとしました。彼の詩が時とともに多様な「声」を獲得し、みごとに響かせている例を、いくつかご紹介したいと思います

Bardとしてのイェイツ-イェイツ詩の多声的な声

Bardとしてのイェイツ-イェイツ詩の多声的な声

神戸親和女子大学名誉教授  松田 誠思 氏

詩人・劇作家W.B.イェイツ(1865-1939)の文学活動は、1880年代末に始まり、1939年に亡くなるまで半世紀に及んでいます。それは英国の支配下にあったアイルランドが、独立のための戦いと挫折を繰り返し、第一次大戦後に「アイルランド自由国」(1922)が成立したにもかかわらず、その国家形態と主権問題をめぐって国論が分裂して内乱が起こり、一応の決着が図られた後も、政治・社会運営において宗派・階級間の深刻な対立が続き、国家的にも文化的にもきわめて不安定かつ流動的な時代でした。
イェイツの文化活動に、このようなアイルランド社会の動向が反映されているのはもちろんですが、彼の詩人としてのあり方には、近現代の多くの詩人たちとは異なるいくつかの特質が現れています。最も注目すべき点は、彼自身、近代ヨーロッパ世界の認識論や価値観を土台に生きてきたにもかかわらず、ある時期からその枠組みを作り直そうとしたことです。彼の心事をあえて一言で言えば、生についても死についても、古代人の経験と英知を学び、蘇らせるべきだということになるでしょうか。もう一つは、社会における詩人の公的役割と地位の重視です。
古代・中世のアイルランドには、Bard(バード)と呼ばれる詩人・語り部がいました。部族の神話・伝説や、系譜・歴史を語り伝える高い素養を持ち、時に応じて詩を吟じ、人々を楽しませるきわめて重要な役割を担っていました。
イェイツは若い時からこのバードの伝説に自分を位置づけ、高貴な精神性と民衆的生のエネルギーに形を与えようとしました。彼の詩が時とともに多様な「声」を獲得し、みごとに響かせている例を、いくつかご紹介したいと思います

アイリッシュダンス公開講座&自主練習会2008

アイリッシュダンス公開講座&自主練習会2008

リバーダンスの日本人ダンサー林 孝之さん
をお迎えしてアイリッシュダンスの公開講座

アイリッシュ ダンサー・振り付師 林 孝之 氏(元リバーダンスメンバー)

Riverdanceを観て何か感じた人が、今度はそれを体験してみてもらうことでより深く楽しんでもらえたら嬉しいです。(林さんのコメント)
林さんはリバーダンスに感銘を受け、2001年に単身アイルランドに渡り、ストリートパフォーマンスをしながら、ダンススクールに通い、世界選手権などに出場。リムリック大学で本格的に伝統舞踏コースを修了し、リバーダンスのメンバーとして世界ツアーに参加されています。 「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれています。日本におけるアイリシュダンスの第一人者です。特にこの講座のために9月~12月にかけて4回シリーズで来福をお願いいたしました。

アイリッシュダンス自主練習会

毎月2回日曜日

今まで当会のアイリシュダンス講座で習ったステップを復習しています。
自主的な練習会なので気軽にご参加ください。

異界の使者クーフリン  ケルト神話の原点をさぐる

異界の使者クーフリン  ケルト神話の原点をさぐる

京都大学名誉教授 佐野哲郎 氏

 すべての民族が持っているといわれる神話には、必ず異界が現れます。それは、あるいは神の国であり、あるいは死者の世界であり、あるいは海の彼方の理想郷です。これらの異界の存在を認識することこそが、人間に、生きることの意味を教えてきたのです。アイルランド神話の最大の英雄と言われるクーフリンは、異界の父の子として生まれ、異界と行き来し、生涯、異界と縁が切れることがありませんでした。このいわば異界の使者としてのクーフリンが私の話の主人公となります。
ウェールズの伝承から発展したとされるアーサー王物語に、「サー・ガウェインの緑の騎士」という物語があります。これを、同じ主題をもつ、クーフリンの物語と比べる事から始め、クーフリンの数多い冒険譚を紹介して、アイルランド神話の原点がどういうものであるかを、考えようと思います。
さらに、強調したいことは、アイルランド神話と日本神話との間にある不思議な類似です。海を越えて常若の国へ行ったアシーンの物語と、浦島伝説とが似ていることは、よく知られていますが、ほかにも、地名の由来へのこだわりという重要な類似があります。それをお話しすることが、もう一つの柱です。

アイルランドにおける伝承のバラッドとリテラリー・バラッドの姿

アイルランドにおける伝承のバラッドとリテラリー・バラッドの姿
18世紀から20世紀にかけて

福岡大学 外国語講師  三木 菜緒美 氏

 ジェームス・ジョイスの短編『ダブリン市民』の中から「死者たち」を映画化したジョン・ヒューストン監督の作品『ザ・デッド』には、ジョイスが聞き馴染んでいたというバラッドが美しく歌われる場面があります。バラッドというのは、中世以来ヨーロッパ各地でうたいつがれてきた作者未詳の物語歌です。一個人である詩人や語り部たちがつくり、歌ってきたものとは違い、民衆の中から生まれたものといってもよいでしょう。そのため個人が作ったものと区別して、この口承のものを「伝承バラッド」と呼んでいます。押韻やリフレインなどシンプルな形式を用い、戦いや恋愛、呪い、亡霊、妖精、変身などをテーマとし、イングランドやスコットランドでは15、16世紀頃に最盛期を迎え、シェイクスピアなどの劇作品にも影響を与えてきました。
アイルランドにはアルスター地方を中心に17世紀初めに入植者たちとともに入ってきたといわれており、英語使用の広がり、そして文字としての定着を促した「ブロードサイド・バラッド」の広がりと平行して、アイルランドでもその人気は広まっていきました。その後、このバラットを好んで模倣し、自分の試作品に取り入れたいった詩人が生まれました。このような詩人が作ったバラッドを”Literary Ballad”(リテラリー・バラッド)「バラッド詩」といいます。
18世紀であればスウィフトやゴールドスミスから、現代であればW.B.イェイツまで様々な詩人達がバラッドに親しみ、自らのバラッド観、社会観を表現していきました。
まずは、バラッドの中でもアイルランドで歌われたていた伝承バラッドをいくつか具体的に見て、聞いてみたいと思います。それから18世紀から20世紀にかけてどのようなバラッド詩が作られていったのか、その一部を紹介してみたいと思います。